選挙を控え、消費税を10%に上げることが議論されている。それと合わせて法人税を減税すると民主党のマニフェストに書かれている。
このところ、主に
videonews.comと新書本やtwitterなどで仕入れた知識を整理するためにこの記事を書こうと思う。
自分のプロファイル理系人間で、経済学については大学1年のときにミクロ経済学とマクロ経済学の基本を学んだような気がする程度。マクロ経済学はあまり理解できず、強い違和感を感じたことだけ覚えている。
思想的には新自由主義に近いと思う。経済活動、特に供給側の産業構造に行政が介入しても良くなることはないので、原則として介入するべきではないと思っている。
セーフティネットは必要だと思っている。また、20年くらい前から所得の分配について自由経済は欠陥を持っていると思っている。そういう意味で左派的だ。
そんな自分にとって、飯田泰之氏が現在最も共感を覚える論者だ。
民主党の参院選マニフェストの消費税増税は昨年の民主党の衆議院マニフェストと矛盾しない自民党や公明党が盛んに「民主党の衆議院マニフェストと矛盾している」と喧伝しているが、これは誤解だろう。
民主党の衆院選公約は「任期中(最大4年間)は上げない」であり、参議員の任期は6年だ。衆院選から約1年経過しているので、4年目以降に消費税を増税するスケジュールならなんら矛盾はない。また、衆議院を解散すれば4年目を待つ必要はない。
では消費税増税は是か非か自分は消費税を増税するのは避けられないと思ってはいる。課税ベースの広さと、他の諸先進国の税率に比べて低いので10%くらいまでの増税余地はありそうだと思うからだ。
ただし、無条件に賛成というわけではない。消費税よりも先に相続税の課税強化を行うべきだ。
また、消費税の逆進性を解決するために、インボイスの導入による生活必需品の非課税化、所得税の累進強化はセットになっていなければならない。
生活必需品に関して「還付」という話が出ているが、インボイスを導入すれば還付ではなくて、消費者視点での非課税化可能なはずだ。というのは、消費者に還付するのと小売業者に還付するのは論理的に等価(ただし金利は無視)だが、後者であれば消費者レベルでは非課税になる。また税務コストの観点でも圧倒的に小売業者への還付の方が効率がいい。なぜなら、還付対象が少ないからだ。
そう考えてみると、消費者への還付を印象付けるような語られ方が多いように思える(実はよく聞いてみると誰に還付するのか曖昧に語られているが)のがちょっと不安にさせるところだ。
消費者への還付ははっきり言ってありえない。それどころか、インボイスがあれば小売業者だけじゃなく、流通過程の上流まで非課税にできるんじゃないだろうか。
法人税減税の意味消費税を上げる代わり(?)に法人税を減税する話が出ている。民主党の参院選マニフェストにも明記されている。これについて大きな懸念を抱いている。
会計的には法人税は「税引前当期純利益」に対して課税される。これは、仕入れ価格や管理コスト、人件費など企業活動の経費を全て差し引いた額である経常利益に特別損益を加えた値だ。
では、法人税が下がれば企業は雇用を増やすのだろうか。答えはNOだ。法人税が下がっても雇用を増やすインセンティブはどこにもない。単に「税引後当期純利益」が増えるだけだ。「税引後当期純利益」の一部は役員賞与となるが、残りは基本的に株主に帰属することになる。
つまり、政府の歳入から資本家に所得が移転するだけだ。
後で述べるが、経済全体として供給過剰になっているなら、来期以降の投資や人員増強の原資に回されることもない。
ちなみに赤字の企業は法人税と無縁なので、いまにも潰れそうな中小零細企業を救済するような効果はない。優遇されるのは利益が出ている企業だけだ。
法人税減税によって誘致した外資は雇用を促進するかでは、国境を越えて企業を誘致する効果はあるだろうか。それによって国内の雇用が伸びる可能性はあるだろうか。
このような効果は語られてはいるが、緻密な議論が見当たらない。
法人税を減税すれば外資が国内に投資するインセンティブにはなるだろう。これによって供給側の環境は改善するだろう。しかし、新しい産業が生まれなければ雇用は発生しないんじゃないだろうか。発展途上国なら外資の増加は工場の増加を意味するので、工場での雇用が生まれるが、この日本で外資を誘致してそれなりの規模の雇用が生まれるとは思えない。
法人税減税で喜ぶのは証券会社と投資家だけで、結局市民は泣きを見ると思う。
そもそも日本経済の問題は需要側にあるのでは?20年来の疑問はこうだ。
「駅に自動改札が導入されたけど、切符を切っていたおじさんたちはどこへ行ったのだろう」
つまり、技術の進歩によって産業が資本集約的になれば、人件費に対する生産効率が上がる。これによって、労働に対する需要が下がる。
労働需要が下がれば給料も下がるはずだが、経済が成長する過程では新しい産業分野で絶えず労働需要が生まれることで給料が顕著に下がらなかったんだと思う。(これは、何の検証もしていないあくまで素人的の考えだ)
経済が成長しない時期になってもIT化などにより産業技術は進歩し効率化する。生産効率が上がったのに経済全体が成長していないと、供給能力が過剰になる。つまり、生産設備と人員が余剰となる。余剰となった人員が吐き出されることで、残った側の人間に富が偏っていく。
グローバル化による労働需要の流出がさらに拍車をかけるが、グローバル化は避けられない。
日本で起きているのはこういう状況なのではないかと思う。
需要不足を解消するには何が効果的か上のような状況であれば、経済が成長しないのは需要が伸びないからだ。需要が伸びれば生産余力はあるのだから。
有効需要が不足した場合、古来から政府支出が有効だとされてきた。いわゆるケインジアンの考え方だ。これを根拠に日本ではあちこちに必要性が不明なダムができたり道路ができたり空港が公共事業として造られてきた。そして、これらは政治家や官僚の権力の大きな源泉となってきた。
一時的に需要が不足したのであれば政府支出は有効かもしれないが、慢性的な症状に対してカンフル剤を打ち続けるのは意味がない。こういった公共事業は即刻止めるべきだと考える。
そういう意味で民主党には期待したんだけど、どっかの国土交通大臣が最初は威勢がよかったのに何か尻すぼみで大いに不安な今日この頃。
さておき、ケインズの理論では減税と政府支出の効果の差は限界消費性向によるとされている。政府が支出(G)すればそのままそっくりGDPの加算され、さらに乗数効果が加わるが、減税(T)で増えた可処分所得は一部が消費されずに貯蓄された後で乗数効果が加わる。最初に貯蓄に回された分だけ損するという理屈だ。この貯蓄される比率に関わるのが限界消費性向だ。例の管財務相(当時)がハメられた国会質問の件だ。
では、意味のない公共事業がこの理屈で正当化されるのだろうか。最初の政府支出GがそのままGDPに加算され、減税Tが貯蓄に回された後からの計上によって1周分だけ損するのは単にGDPの計算上の約束事に過ぎない。「政府支出Gは経済活動から発生した需要でないからGDPに加算すべきでない」とか、「減税も政府の支出と見做せば1周目を加算してもいい」といった議論もできるはずだ。
つまり、政府支出それ自体によるGDPの増分には意味がない。
また、公共事業は支出先を決める権限が政府にある。これは大きな権力源泉になるし、権力者の恣意性により経済に大きな歪みを与える。競争が制限されるので効率的でもない。そして土建業に偏って生産能力の余剰が温存されていくのだ。
高所得者層から低所得者層への再分配が最も重要低所得者より高所得者の方が限界消費性向は低い。つまり、高所得者からX円徴税して低所得者に同額を補助すれば、全体として消費は増える。つまり需要を増やすことができる。
残念ながら自由経済にはこのような所得分配のリバランスのような機能はない。この機能は政府が賄うしかない。
最も効率的にこの機能を行うのは所得税の累進強化とベーシックインカムだろう。ベーシックインカムは一律に税金を還付する制度なので、還付時の資格確認などにかかるコストが格段に安い。また、権力源泉にもならない。支出先は市民が個々に決めるので官僚が経済を歪めることもない。
ベーシックインカムがあれば、仕事がなくて住みにくくなった田舎も、物価が安いという理由で住むインセンティブが生まれる。これによって地方に人が分散すれば地方が活性化し、新しい経済が生まれる。
低賃金の派遣労働でもベーシックインカムとあわせて生活できればいいのだから、派遣労働を禁止する必要もなくなる。
仕事すると生活補助が受けられなくなって貧困になるといった逆説的な問題もなくなる。
このような考えからベーシックインカムには大いに期待している。
高速道路の無償化もベーシックインカムとの相性がいい。
財源と境界条件と導入シナリオがベーシックインカムの難しいところだが、それこそ優秀な官僚の腕の見せ所だろう。
デフレについて最後にデフレについて触れたいと思う。
デフレが何で問題かというと、政策金利をマイナスにすることはできないから、デフレが発生すると金融政策が効かない状態(流動性の罠)になるからだという。
しかし、需要が伸びず、技術が絶えず進歩していれば供給がダブついて物価が下がるのは当り前なのではないだろうか。
確かにデフレが、ローンなどの借金を抱える低年齢層から、金融資産を抱える高年齢層に実質的な所得移転の効果があることは問題だと思うので、1〜2%くらいのマイルドなインフレが継続するのが望ましいのだろう。
これについて日銀が十分にマネーを供給しないからだと批判し、責任を指摘する声が多い。勝間和代氏が急先鋒で、高橋洋一氏や飯田泰之氏もこの立場だ。
確かに貨幣を供給すればインフレが起こり、結果的に物価は上がるかもしれない。日銀が「これからは国民一人当たり無条件で毎年100万円配ります」とかってすればさすがにインフレになるだろう。また、この条件なら少子化対策にもなりそうだ。
でも実際にはこんなことはできないだろう。じゃ、結局どうすればいいという議論なのかがよくわからない。日銀がマネーを供給しようにもマネー需要がないからデフレなんじゃないだろうか。
「日銀が知っている」とか「インフレ率をコントロールする方法を知らない人が中央銀行の総裁になってはいけない」とかいう曖昧な話でなく、具体的にどういうシナリオがあるんだろうか。
政府が100兆円の政府発行紙幣を発行して日銀に交換させて、その金を国民に100万ずつ配ればいいのだろうか。あ、これじゃ日銀がインフレを起こしたことにならないか。
消費税の還付に関する追記